2014年2月18日

【横領罪】委託信任関係が要件となるのはなぜか

横領罪は、「自己の占有する他人の物を横領した」ときに成立します(刑法252条1項。以下、刑法の条文は条数のみで表記)。明文上、252条1項から確認できるのは、横領罪の客体が「自己の占有する他人の物」であることと、実行行為が「横領」であることです。

しかし、横領罪の成立には、行為者の財物の占有が委託信任関係に基づくこと(委託信任関係)が要件になるとされます(東京高判昭和25年6月19日)。252条1項の横領罪は委託物横領罪と表現されることもあります(単純横領罪とも)。条文に書いてないのになぜこの要件が要求されるのか、考えます。

横領の罪には、252条の横領罪のほか、業務上横領罪(253条)と遺失物等横領罪(254条)があります(2編38章)。業務上横領罪を定める253条は、252条1項の文言の頭に「業務上」とつけ、法定刑の長期を2倍にしたものであるので、単純横領罪の加重類型であることが明らかです。

遺失物等横領罪と単純横領罪の違いは、客体である「他人の物」が、「自己の占有する」物か「占有を離れた」物かにあります。ポイントはこの点にありそうです。

誰の占有にも属していない他人の物・偶然自己の占有に帰属した物は遺失物等横領罪が適用されます。254条の方が軽い刑罰なので、この場合に単純横領罪の適用があるとは考えません(大谷)。そうすると、252条1項にいう「自己の占有する」とは、物の所有者が関与している占有取得原因がある場合を指すと考えられます。つまりこれが委託信任関係にあたります。

この点をとらえて、「被害者が信頼して預けた物を信頼を裏切って自分の物にするという、委託信任関係の違背に横領罪の本質があり、占有離脱物横領罪はそのような性格を持たないので、本来の横領罪(すなわち委託物横領罪)とは異質な犯罪とされるのである」といわれます(井田各論)。

以上から、委託信任関係が(業務上)横領罪の要件となるのです。

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